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1905-03-16

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明治三十八年三月十六日『読売新聞』第三面

女学生言語

数年前までは女学生には自ら女学生用語なるものありて一種高尚なる口調なりしことは女子教育に経験ある人の知る所なり。

然るに近年女学の勃興するに従ひ比較的下流社会の子女が極めて多数に各女学校に入学するに至りしより所謂お店の娘小児が用ゆる言語女学生間に用ひらるゝに至れること左に掲ぐる例の如し。

○なくなつちやつた

○おーやーだ

○行つてゝよ

○見てゝよ

○行くことよ

○よくッてよ

○あたいいやだわ

○おッこちる

○のッかる

教師の面前に在りては殆んど斯る言語を用ひざれどーたび彼等の控所若くは運動場に至れば裏店の娘等が喋々喃々と饒舌り居るに異らず。而して更に次の言語を耳にすべし。

○失敬なんだよ

○君

○僕

○無礼千万だわー

○君遊ひに来玉へな

○其他男学生の用ゆる常語

更に又少しく注意し聴けば、

○ミス

○ミセス

○ハズバンド

○スウヰトホーム

○理想のホーム

○ラブ

○ワイフ

以上三種語の中『おーいやーだ』の類はー年二年生の如き初級生に多く用ひられ『失敬なー』『理想のホーム』などの類は三年以上の上級生に多し。

右に就き地方より留学せる女生の言語は奈何と見るに中国の中にても広島、岡山、山口地方より来れる者は実に乱暴なる言語を操つる中に訛言甚だ多く教師に向っては極めて叮嚀なれど同輩の間にては以上の如き有様なるが東北より来れる女学生の夫れの発音は極めて悪かれど言語の質は中国の比にあらずとは某教師の語る所なり。

而して是等地方より来れる女生は良き言語は覚えず第一に覚ゆるが例の『よくってよ、おーやーだ』の類なると又彼等の一部には小説を愛読する結果言語の中に英語を交へ漢語を使ふ者あり。

畢竟小説家女学生言語を写せしにはあらで女学生小説家の為に左右さるゝと云ふ証拠には『今の小説には平仮名ルビをつけたものより片仮名ルビをつけた家庭《ホーム》とか妻君《ミセス》とか云ふ文字が沢山入れてありますゆゑ自然に英語を覚えます』と語れるを見ても知らるべし。

斯る次第なる故習慣の上より野鄙に聞ゆるもの或は省略に過ぎて意義誤解し易きもの敬語用法の穏かならざる『お習字』とか『お料理』とかいへるもの等は充分改良するの必要ありとて第二高等女学校にては昨今夫々其の改良法を実行しつゝありと聞り。

『同方会誌』第二十九号(明治三八年一二月)p.68 に、出典を示さずに全文転載。

森銑三『明治東京逸聞史』下・平凡社東洋文庫p.183で紹介あり。

小松寿雄「東京語における男女差の形成」は、森銑三『明治東京逸聞史』からとして言及

「近年女学の勃興するに従ひ〜三年以上の上級生に多し」 飛田良文「近代語彙の概説」『講座日本語の語彙6近代の語彙』)で引用。ただし「女学生"の"言語」とする。

飛田良文『東京語成立史の研究』p.205も同じ。