1693-03-19
■ 和字正濫鈔 巻五
假名にて音をかくに紛るゝは、「い・ゐ」等は假名の法のことし。「いう」、「ゆう」、かやうに下に「うもじ」つきたるは、音便おなじやうに聞ゆる故に、迷ひやすきに。入聲の「葉えふ」「攝せふ」等の「ふもじ」さへ、又「う」と聞ゆれは、いかにかきやらんとも知りがたし、是は韵書を見て〈かへし〉の文字にて意得へし。
「せう・しよう・しやう・せふ」、是等はよつながら同じく聞ゆるなり。
法師、此「法」は入聲にて、漢音は「はふ」、呉音は「ほふ」なれは。假名には「ほふし」と書へき理なれと、「ほうし」と書ならへり。和名にも「玄蕃寮」を「ほうしまらひとのつかさ」とあれは。入聲なりとておさへても書かたし。
甲は「かふ」なるを、和名に「爪甲」を「つめのこふ」とあれは、俗傳もまたそむきがたし。