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2011-01-17

隠語の話日置昌一『話の大事典』隠語の話(日置昌一『話の大事典』) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 隠語の話(日置昌一『話の大事典』) - 国語史資料の連関 隠語の話(日置昌一『話の大事典』) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

 徳川時代から明治時代にかけて侠客、香具師などの問に堂々とは口にしがたい場合に用いる彼等のみに相通ずる符牒の如き特殊の言葉を生ずるようになった。その内で最も廣く知られた強盗、窃盗などの用いる代表的な隠語を擧げると、

 (強盗)叩き、とんとん、針金《はりがね》、砂利居直《いなお》り(窃盗)のび、板桂、天蓋《てんがい》引(湯屋の脱衣場専門の窃盗)板ノ間(百貨店等に於ける窃盗)萬引、びき(停車場待合室又は銀行、會社の待合室の窃盗)置引《おきび》き(品物又は賍品)なし(衣類)びら(帯類)なげし(酒)きす(賍品分配)勘分け(靴専門の窃盗)九官引き(現金專門の窃盗)なま師(汽車電車に於ける窃盗)箱師《はこし》(車上に於ける物品の窃盗)源氏師(土藏破りの窃盗)娘師《むすめし》(土蔵)娘(店員が店の品を窃盗)白鼠(宿屋泊込の窃盗)邯鄲《かんたん》師(拳銃)まめ、とび、ぱちんこ(日本刀)だんびら(ヒ首《あひくち》)どす(殺す)眠らす(強姦)つゝこむ(帽子)あたま、てんと(足袋)ちりべら、さきかけ、(煙草)えんた(襦袢《じゅばん》類)はたびら(金庫)だんな、こんだぱこ、なまばこ、どるばこ(壹圓)一杯(五圓)五杯(賍品の處分)ばらす、ちらす(秘密)だよ(密告)さす、喪込む(品觸)《しなふれ》さし(身上危険)やばい(逃走)ずらかるはずる、おはつさん(放火)お七、照らす、温める、灸をすえる(捕縛)ばくる、ぬかる(顔知り)面が通る、面あがる(犯罪の資金)乗り金(捕縄)ほそ(風呂敷)よつ(賍品を隠匿)ふせる(熟睡)しらかわ(品物が澤山ある)孕《はら》む(淫事)濡《ぬ》れ(諸所を探し廻る)流す(發覺)ずかれる、ばれる(取調)あごとり(犯罪否認)しらをきるかぶり、ねだる、あごばる(自白)わる、うたる、ぐちをねる(素人)藤四郎(警察署)さつ(交番)ばんこ等である。

 また明治常時の掬兒の隠語は(被害者)どうろく、長太(抜取る)かった(拘摸《すり》に出掛ける)商法に行く(莨《たばこ》入)もく入れ(煙管)鐵砲(巾着)なす(財布)與市(紙入)だい(金銭)しん(時計)まんじゅう(金側時計)うぐいす(金の敷)一ばいごはい(金圓を多分に所持)しんがまり(かばん)ばんか(鞄を切る)ばらす(通行人に衝突《つきあたつ》て抜取る)ちえをまう(背負ている風呂激、から窃る)まきをほごす(手拭)すいびら(亭主)どうろく(女)げん(色情をする)たれをやく(娼妓を買う)びりつりにゆく(藝者)おしゃます(自分達)あいがも、あいちゃん(捕まる)つんをした(探偵がきびしい)やばい(逃げる)づらかる(地方ゆき)どさえ行く(刑事に踏込れた)どさが入った(刑事)おだいじ(巡査)ぼう(警部)ぶけい(警視廳)きよく(警察署)むろた(入獄)むしえかまる(懲役)外國行(監視)しかん(警察署えゆく)ぼつちりに行く(放免)ぱい(派出所、汽車)はこ(汽車の掏児)箱師(鐵道馬車)はきだめ(士族)がた(職人)にんしよく(老人)へんこを(老婦)ちり(小供)じやく(米)しゃり(下女)しゃりまわし(角力取)ねぢへい(抜取安い)やすい(取りよい)たかい(配當)ちやをふはい(薩摩芋)どおじぼお(じゃが芋)じゃが(目ざし)ちよーれん(油揚)ふとん(切手)南京そば(掏兒仲間)すいとり等がある。