国語史資料の連関

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2007-07-07

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「早よ、S病院、チュイ。あなたのお父ツぁん、負傷あります。日本太夫リベンタイフて、出血あります。クヮイクヮイデ。」

 詰襟の善人らしい支那人は、日本語と、支那語を、ごちゃごちゃに使った。早く、幹太郎に用談を伝えようとあせる。距離のある眉と眉の間に、皺をよせた。あせると、あせるほど、日本語は舌の先でもつれてしまった。http://www.aozora.gr.jp/cards/000037/files/1418_22363.html


「これ黄燐《マッチ》、――と、そこの支那人が云っているんだよ。ちょっと、日本語の片ことが云えるんだ。」製麺工場の、まだ、ウドン粉くさい玉田が云った。「――これ、大いに毒ある。外国の工場作らせない。私ら、身体、すぐ悪くなる。この薬、悪い、大いに毒ある、悪い、こいつは、……この黄燐《マッチ》は、有毒だし、すぐ火事を起すから、どこの国でも禁止しているんだよ。それを、ここじゃ作っているんだ。」

「これ、大いに毒ある。人、死ぬる。」と玉田は、支那人言葉の真似をつゞけた。「鉄道もない、劇薬もない、田舎、これ、自殺にのむ。男と、女、夫婦、喧嘩をする。媳婦《シーフ》(妻)死にたくなる、これ、この軸木のさきの薬、けずり取ってのむ。この函に十函ぶんのむ。死ぬる。日本、ネコイラズ、中国黄燐……」

「ふむむ、……それだけ日本語が分りゃ、話が出来るじゃないか。」高取があたりかまわぬ声を出した。

「その支那人を、ここへつれてこんか、話してやろうぜ。面白いじゃないか。」