国語史資料の連関

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2007-05-13

[][]「仮名に書きつくること」(『愚管抄』巻二) 「仮名に書きつくること」(『愚管抄』巻二) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「仮名に書きつくること」(『愚管抄』巻二) - 国語史資料の連関 「仮名に書きつくること」(『愚管抄』巻二) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント


愚管抄

此皇代年代の外に神武より去々年に至るまで世の移り行道理の一通りを書けり。是を能々心得てみん人は見らるべき也。偏に仮名に書つくる事は是も道理を思ひて書る也。先是をかくかかんと思ひ寄事は物知れる事なき人の料也。此末代ざまの事を知るに文簿にたづさはれる人は。貴きも卑も。僧にも俗にも。有難く学問はさすがする由にて。僅に真名文字をば読ども。又その義理を悟り知れる人はなし。男は紀伝明経の文多かれどもみ知ざるが如也。僧は経論章疏あれども学する人少し。日本紀以下律令は我國の事なれども。今すこし読解人あり難し。仮名に書ばかりにては。倭詞の本体にて文字へかからず。仮名に書たるも。猶読にくき程のことばを無下の事にして人是を笑ふ。はたと。むずと。しやくと。とうとなどいふ詞ども也。是こそ此倭辞の本体にてはあれ。此詞どもの心をば人皆是をしれり。あやしの夫宿直人までも。此ことのやうなることぐさにて多事をば心得る也。是をおかしとてかかずば。只真名をこそ用るべけれ。此道理どもを思ひ続けて。是は書付侍りぬる也。さすがに此國に生れて。是程だに國の風俗のなれる様。世の移り行趣を弁へしらでは。又有べき事にもあらずと思ひ量らひ侍るぞかし。書落す事申度事の多さは。是を書人の心にだに残ることは多く。顕はす事は少くこそ侍れば。まして少しもげにげにしき才人の目にさこそは見るべけれど。さのみ書侍らば。大方の文のおもて。よたけく多くなりて知人も有まじ。書れぬべくは皆とどめつ。又無益の事ども書尽したりとありぬべきは皆思ふ所侍るべし。心あらん人の目を留めん時は。心を付る端となり。道理をわきまふる道と成ぬべき事をのみ書て侍る也。才学めかしき方は是より心付て。我今更に学問せらるべき也。又人語り伝ふる事は皆たしかならず。さるもなき口弁にて誠の詮意趣をば云のけたる事どもの多く侍れば。その疑ひある程の事をばに書とどめ侍らぬ也。かく心得て是より次々の巻共をば。此時代時代引合せて見るべき也。

原文片仮名

http://www.st.rim.or.jp/~success/gukansyo02_yositune.html


日本語の歴史4』平凡社 

杉本つとむ「近代の言語生活」(講座国語史文体史言語生活史)「偏ニ仮名ニ書ツクル事ハ……此コトノヤウナルコトグサニテ多事ヲバ心得ル也」

佐藤喜代治文章観の変遷」(『現代作文講座・文章活動の歩み』)「偏ニ仮名ニ書ツクル事ハ……物知レル事ナキ人ノ料也」

田中敦子神代文字考国文目白 27 1987