2005-02-23
■ [近代語]林甕臣「言文一致歌」
歌は、折りに触れ事に臨んで情の感じうごき思ひ切にせまつたときの呻吟(うめ)きのこゑに過ぎないものである。云はヾ鳥が花に囀り虫が草むらに鳴くも、つまりおなしことで万葉集やなにかの古い歌の中に其の世の俗語方言のまヽに口からでまかせのやうなのにかへつて感心せられるのがおほいが。それを見てもようわかることぢや。歌は殊に言文一致でなければならぬはずである。今こヽろみに甕臣が詠んでおいたほぐの中から腰折れの一つにつを口で云ふとほりの詞にうつして左にかヽげ識者のおもはくをとふ。もし見る人もあつたならなんとでも批評してくれたまへ(原文片仮名)
待鶯
竹の林梅の園にも鶯のなかぬ時にはなかぬなりけり
ウメニキテミ。藪ニマドヘド。鶯ノナカナイトキハ。サテナカヌワイ
新樹
隅田川今年は花にこざりしを若葉か蔭そ三度問ける
スミダ川。コトシハ花ニ。コナンダニ。葉桜ニナリ。三度(ド)キタワイ
郭公
うたゝねの夢打さめて郭公真との声もきく夜なり鳧
ヰネムリノ。ユメデハナイカ。郭公。ホンタウニナク。アレアノ声ハ
樹下納涼
水見れは流れも涼し声きけは蝉も涼しな木蔭れの宿
オヒシゲル。木カゲノ宿ハ。水ノミカ。蝉ノナクネモ。ヤハリ涼シイ
寒夜月
やれ窓に氷れる月の影さして北ふく風に狐なくなり
ギラ/\ト。ヤブレ障子ニ。月サエテ。風ハヒウ/\。狐キャン/\
言及
土岐善麿「短歌と国語」(土岐善麿『歌・ことば』)