国語史資料の連関

国語史グループにあったブログ

2004-05-08

趣味の熟字石井研堂明治事物起原・人事部) 趣味の熟字(石井研堂・明治事物起原・人事部) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 趣味の熟字(石井研堂・明治事物起原・人事部) - 国語史資料の連関 趣味の熟字(石井研堂・明治事物起原・人事部) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

 趣味といふ語は、明治四十年頃より盛んに座談、平話にも使用せられ、月刊雑誌の題にも、趣味、趣味の友、釣魚趣味など種々に使用せり。

 箕作麟祥纂訳、明治六年秋刊行の『勧善訓蒙』続篇第八に趣味の一項あり。「本心は正邪を弁ずる有理の感ある如く、趣味は又美醜を弁ずる有理の感たり、然れども、趣味の力は、独り行為の美醜のみに管するに非ず、凡そ天然上の事物より、人の智心及び行善に発する各事に至る迄、挙げて皆預らざるなし」、「趣味の力は、本心に同じく、吾人の心を発動せしむるものと雖も、其発動せしむる方法は、甚だ異りて、本心は、吾人の心を発動し、以て美を愛せしめ、又本心は、吾人に其義務を思ふの行を為さしめ、趣味力は、吾人に、嗚呼美なりと歎賞せしむ、故に本心の主眼は、真を行はしむるに在て、趣味力の主眼は、美を楽ましむるに在り」。(節略)

 また明治二十二年一月、在英国尾崎行雄の趣味教育の文中に、「女学校にて、詩歌画楽等の形式を教ふるよりは、却て其趣味を解得せしむる様に尽力するを要す、其趣味さへ解得して詩思画情に富めば、之を賦し之を画く能はざるも可なり」と。また同年五月『女学雑誌』第一六九号に、日本人の趣味と題せし一文あり、中に「田舎漢が赤い物を好むも、都人士の渋い物を好むも、趣味の相異(言ひ変れば、趣味の老幼にして)云々」などあり。ともに趣味の語を究明したる古き方なり。元来この語は、支那にて、古くより使ひ来りし熟字にて、『水心題跋』に「怪偉伏2平易之中1趣味在2言語之外 1」などあるごとく、興趣の意味の語なれば、愛美に限らず、今日の俗談平話のとほり、古本趣味、玉突趣味、登山趣味などに用ひても、不当ならず。

大正版

p19