国語史資料の連関

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2003-08-02

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實際を見ると、英吉利及び亜米利加などのアングロサクソン族は、一には商業、一には言語をもつて、漸次世界を風靡しつゝある状勢にある。英語の流行るのは、單り日本ばかりではない。支那にも大流行である。所謂ピジョン・イングリッシュ、人によつてはピジン・イングリッシュといふ。

 ビジョン・イングリッシユとは、鳩の英語といふのであつて、支那人發音がよく出來ないから、鳩が物をいつてゐるやうに聞える。それでピジョン・イングリッシュといふ。日本人はLの發音が出來ない。すべてRである。支那人はRをみなLにしてしまふ。しかし支那人外國語は、日本人より堪能で、到底比較にならぬほど勝れてゐる。けれども今いつたやうな癖があるので、支那人發音は鳩のやうだ、そこでビジョンといふのだといふが、さうではない。ピジンである。

 ピジンとはビジネスである。文學用ではないが、商業取引上に必要なる言葉といふのでビジネス、それをもぢつてビジン・イングリッシユといふのである。それが圖らすビジョン・イングリツシユの名がついて、英語系統の一種の新しい言葉になつたものと思ふ。現にビジョン・イングリッシユの文學といふやうな、滑稽染みた文學が、支那には行はれてゐるくらゐである。ロングフエローの歌、テニスンの詩、學校の子供達でもよく心得てゐる有名な詩を、ビジョン・イングリッシユに書いたものなどが、盛んに讀まれ、歌はれてゐるところを見ても、ピジョン・イングリツシユのリテレチユアといふものが、一つ出來かゝつてゐることがわかる。http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272214/129