国語史資料の連関

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2002-09-02

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一 和語をとく事は謎をとくが如し。其法訣をしるべし。是をとくに凡八の要訣あり。

○一に自語《ジゴ》は天地《アメツチ》男女《ヲメ》父母《チヽハヽ》などの類、上古の時自然に云出せる語也。其故はかりがたし。みだりに義理をつけてとくべからす。

○二に転語は五音相通によりて名づけし語也。上《カミ》を転じて君とし、高《タカ》を轉じて竹《タケ》とし、黒《クロシ》を轉じて烏《カラス》とし、盗《ヌスミ》を轉じて鼠《ネズミ》とし、染《ソミ》を轉じて墨とするの類也。又轉語にして略語をかねたるも多し。且音を轉じて和訓とせし類あり、後にしるす。

○三に略語ことばを略するを云。[ひゆる]を氷《ヒ》とし、[しばしくらき]を[しぐれ]とし、[かすみかがやく]を春日《カスガ》とし、[たちなびく]を[たなびく]とし、文出《フンデ》を筆とし、墨研《スミスリ》を硯とし、宮《ミヤ》所を都とし、[かへる手]を[かへで]とし、[いさぎよき]を[さぎ]とし、[かヘリ]を鴈とし、前垣を籬《マガキ》とし、[きこえ]を聲《コヱ》とするの類也。上略中略下略有、又略語にして轉語をかねたるも多し。

○四に借語は他の名とことばをかリ、其まゝ用ひて名づけたる也。日をかりて火《ヒ》とし、天《アマ》をかりて雨とし、地《ツチ》をかりて土とし、上《カミ》をかりて神とし髪《カミ》とし、疾《トシ》をかりて年とし、蔓《ツル》をかりて弦《ツル》とし、潮《シホ》をかりて鹽《シホ》とし、炭《スミ》をかりて墨とするの類也。

○五に義語《ギゴ》は義理を以て名づけたるなり。諸越《モロコシ》を唐《モロコシ》とし、気生《イキヲヒ》を勢《イキヲヒ》とし、明時《アカトキ》を暁《アカツキ》とし、口無を梔子とするの類、又是を合語とも云。二語を合せたる故也。又義語にして轉語をかねたるもあり。義語を略したるは即略語也。

○ 六に反《ハン》語はかな返し也。[はたおり]を服部《ハトリ》とし、[かるがゆヘ]を[かれ]とし、[かれ]を[け]とし、[ひら]を葉《ハ》とし、[とをつあはうみ]を[とをたふみ]とし、[あはうみ]を[あふみ]とし、[きえ]を[け]とし、[見へ]を[め]とし、[やすくきゆる]を雪とするの類多し。

○七に子語は母字より生する詞を云。一言母となれば其母字より生するを云。日の字を母字として[ひる]、晷〈日咎〉《ヒカゲ》、光を生じ、月を母字として晦《ヅゴモリ》、朔《ツイタチ》を生じ、火を母字として炎《ホノヲ》、焔《ホムラ》、埃《ホコり》を生じ、水を母として源《ミナモト》、溝《ミゾ》、汀《ミギハ》、港《ミナト》を生するを子語と云。

○八に音《イン》語也。音語に三様あり。一に字の音を其のまゝ用ひて和語とせしは、菊、桔梗《キキヤウ》、繪馬《ヱムマ》、石榴など也。二に唐音《タウイン》を其まゝ和語に用たるあり。杏子《アソズ》、石灰《シツクイ》、菠薐《ハウレン》などの類也。三には梵語を用たる有。ほとゝぎす、尼《アマ》、猿《サル》、斑《マダラ》などの類也。和語千萬おほしといへども、此八の外に出す。もろこしの文字をつくりしに、六書とて六の品あるがごとし。

阪倉篤義語構成の研究』p.44