1992-04-03
■ [ワープロ生活史]
檀家総代のあととりで、秀才の誉れ高いA青年から、一万円の納経料とともに、十枚ほどの写経が届けられた。しかし、それを目にしたK住職は思わず、
「A君を呼べッ」
とどなった。
というのも、届けられた写経はすべて、ワープロで打たれていたのだった。寺に現れたA青年にK住職は、
「おまえ、ええか。ワープロには心が入っとらんのや。指でボタンを押しただけで、写経ができたと思ったら大間違いや」
とさとした。しかし青年は、
「そんなこというたかて、お経は難しい漢字ばかり。機械でつくった字もかなりあるんやから、心は十分こもってます」
といい張った。
K住職は「あかん、あかん」と譲らず、一万円とともに引きとらせたものの、「これから世の中どうなるのやら」と頭をかかえている。
デキゴトロジー vol.6 p.188-189